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第1部 一章【財前姉妹】その10 第三話 ラボ

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-06-12 10:00:00

122.

第三話 ラボ

 飯田雪はおぼつかない手つきだった。牌に触れたのは今日が初めてだと言うからそれも仕方ない。

「なんか麻雀牌って重いんですね。それに、デザインも描いてるんじゃなくて彫ってあるんですね。素敵だなあ。知らなかったなあ」

 そう言いながら飯田はまじまじと自分の手牌を見つめる。

「盲牌(モーパイ)って聞いたことないか? あれはさ、指先の(主に親指の)腹だけで何の牌を引いたか当てることなんだよ。この彫りの手触りだけでね」

「そっ、そんなこと可能なんですか?!」

「出来る人には出来る。おれは苦手だけど」

「ふふっ! なんだ、苦手なんですね。凄い! と思って聞いてたのに」

 ふふっ! と笑う飯田は笑顔が幼い少女のようでなんだかミサトはキュンときた。

 そんなこんなで半荘2回を行いミサトと店長が1回ずつトップを取って終了した。半荘2回を通して飯田を観察したミサトの感想は(飯田さんはとても丁寧に麻雀するなあ…… 鍛えたら強くなりそう。あと、顔がかわいい、髪を伸ばせばもっといいのに)と思ったという。

 ゲーム終了後にミサトは思い切って話しかけた。

「あ、あのさ。飯田さん。私も今18歳なんだけど、私達お友達になれないかな?」

「えっ…… ぜ、ぜひよろしくお願いします。ユキって呼んでください。名前…… 気に入ってるので」

「同じ同じ! 私も自分のファーストネームを気に入ってるの! 私のことはミサトって呼んでね、ユキ!」

「わかりました…… よろしく、ミサト」

(かわいい~!)

 ミサトの中で何か禁断の扉がバカン! と勢いよく開いたような音がした気がしたが(気のせいだろう)と思うことにした。

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    118.第十伍話 笑顔♪ピロン(カオリちゃんからだ…… なんだろう。あまり、見たくないな。なんだか、合わす顔がないし……) 家事は終わらせているので子供は旦那に任せることも出来るが、気が乗らない。プロを辞めた事についての話だろうなと思うとどうしてもメッセージを開くことに躊躇してしまうメグミだった。────(メグミさん、既読付かないなあ)「アンちゃん。ちょっと私、洋服見に行ってくる。また帰ってくるから」「わかりました~」「じゃ、またあとで」「あい、いってらっしゃい」 カランカラン“メグミさん。忙しいですか。それならまた今度でもいいです。すいません、無理言って”────(またカオリちゃんからだ。さすがに開くか……) 丁度その時、子供を夫に任せてメグミは夕飯の買い物をしに外に出ていた。“いま丁度外に出たとこ。少しなら会えるけど、10分くらいでいいかな”“大丈夫です”“じゃあ10分以内で行くから待ってて”“わかりました”────「お待たせ、ごめんね返信遅くなって」 メグミがほぼノーメイクで来た。いつもメイクが濃いわけではないがそれなりに化粧をしていたんだなとこの時知った。「メグミさん! お待ちしてました。何か飲まれますか?」「じゃあ、アイスコーヒーが飲みたいかな」「アンちゃん、アイスコーヒー2つ下さい」「アイスコーヒー2つですね。かしこまりました」「随分親しげね。あの子は友達?」「あれ、そういえば紹介してませんでしたっけ。彼女は竹田杏奈。私の高校の後輩で一緒に麻雀を鍛錬したかけがえのない仲間です」「そうなの。竹田さん初めまして。私は日…」「に?」「いえ、成田恵美です。よろしくね」(日本プロ麻雀師団所属だという紹介はもうしなくていいんだった)「よろしくお願いします」「……で、いきなり本題なんですけど、師団を辞めるって本当ですか?」「あら、もう聞いたの。店長ったらお喋りだなぁ。……ホントよ。もうけっこう前から決めてたの、次のリーグ戦で昇級しなかったら辞めようって」「嫌ですよ! 辞めてほしくないです!」 カオリにしては珍しく大きな声を上げた。アンは初めてカオリの大きな声を聞いてビックリした。「シーッ…… 喫茶店で大きな声出さないの……。うん、ありがとね。わざわざ止めるために呼び出したり…… 私、後輩に説得

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